本土の常識は沖縄の非常識
2012.02.15 沖縄建設新聞 建設論壇
平成24年度の建設論壇に参加させてもらうことになりました。
論壇というほどの論文が書けるとは思いませんが、沖縄の気候風土と建築について、また、そのデザイン等についての私見を多少綴ることでお許しいただきたいと思います、建設記事を読む合間に気分転換で読み流して頂ければ幸いです。
さて、私は沖縄で設計をしていて、時折想うことがあります、それは、「本土の常識は沖縄の非常識」ということです。それは気候風土に起因することが多々あるようです。特筆すべきは。熱環境の違いでしょう。本土では、九州でも夏場の35~36度から冬場の最低気温は0度近くまで下がります。それに比べて、沖縄では、夏場に32~33度、冬場でも最低気温が10度を割ることはめったにありません。月別の平均気温で比較すると年間の気温差は12~13度の違いでしょうか。つまり冬暖かく一年を通じて温暖であるという事です。何をいまさらと思うかもしれません。しかし、建築基準法が全国一律のせいでしょうか、沖縄では全く的外れな、冬場を想定した断熱の仕様が省エネ基準で求められることがあります。
家づくりで比較してみましょう。それは「高気密、高断熱の家」という仕様です。冬場に温めた室内の暖気を外に出さないようにする、魔法瓶のような家です。冬季の気温が低く、内外の温度差が20度または、それ以上になる本土では、省エネルギーの観点からもそれは、必要な仕様です。また、熱の出入りの大きな開口部は、できるだけ小さくして気密性を高める必要があります。
しかし、沖縄ではどうでしょう。冬場温暖で外気温との差があまりなければ、断熱はそれほで必要とされません。壁面を通じて暖気が外へ移動するほどの温度差がないからです。沖縄で必要とされる断熱は、むしろ夏場に対してでしょう。それも気温自体が高いというよりも、強烈な太陽光によって温められた屋根や壁面が熱を持ち、それが室内に入り込むことを避けなければなりません。特に沖縄では、コンクリートの住宅が主流です。熱容量の大きいコンクリートは温まると冷えにくい性質を持っています。それは、強い太陽光をいかに遮断するかにかかって来ます。
断熱というより、遮熱という概念に近いでしょう。断熱が寒さに耐え、体温を保持する為にセーターを着込むとすれば、遮熱は、太陽の熱をさえぎるように、日傘をさすものだと思います。つまり、日傘は、家の屋根になります。しっかりと断熱した大きな屋根をかけることで日影を創り出すことです。沖縄の赤瓦の民家をみると真に大きな影を創り出しています。そして、軒先を涼しげな風が吹き抜けています。実に風土に合った合理的な造りをしていると想います。大きな屋根や深い庇をかけ、そして出来るだけ大きな開口部を設けて風を抜く工夫がされています。
しかし近年の沖縄の住宅の外観にその特徴があまり見られないのはなぜでしょう。市街化が進み敷地に余裕がないことで、平屋建てができないことや、プライバシーやセキュリティの問題等、色々な事情があるかもしれません。庇の1mを越える部分からは、建ぺい率に算入されるからです。でも、深い庇が建物の四周に回らないのは建築基準法に原因があるのかもしれません。特にマンション等の集合住宅に至っては、建ぺい率や容積率がそのデザインを決定づけるものです。2mの奥行き持った庇やバルコニーが周囲にあれば、ゆったりと大きな開口を設けることも可能でしょう。そして、そこは古民家のアマハジのような半外部の空間として有効に利用することができます。雨の日も開けっ放しの、風通しの良い日影空間を持った建築が出来上がります。沖縄県内独自の庇に配慮した建ぺい率の緩和が望まれます。
次に、屋根面の断熱について考えてみましょう。赤瓦は美しい沖縄の風景を創り出しました。赤瓦は、素朴な沖縄の風土が生み出した素晴らしい建築材料です。でも、現代では、コンクリートの屋根に代わりました。また、マンションなどの高層の建物も多くなりました。その屋根に赤瓦を載せたのでは少し違和感があります。では、21世紀の新しい沖縄の屋根を葺くのにふさわしい材料は何でしょう。私は「緑」だと思います。屋上を緑化するのです。屋上緑化には優れた断熱効果があります。また、コンクリート構造物の密集する都市部では、ヒートアイランドの防止のためにも緑化は有効な手段です。その上、景観的にも潤いを与えます。首里の丘の上から那覇市を望むと、白々としたコンクリートの屋根群の向こうに東シナ海が望めます。那覇の街の緑化が進めば緑の草原の向こうに碧い海が広がる美しい景観が生まれるでしょう。
屋上緑化をより一層積極的に進めるには、固定資産税の減税等、何らかのボーナスを与えるといいのではないでしょうか。減税措置等の建築主にとってのメリットがあれば、それが実行に移されることはあります。美しい、沖縄らしい風土にあった街並みや、風景を作り出すには、沖縄独自の建築に関わる法律の改正や制定こそが鍵を握っているのかもしれません。沖縄の風土に合った沖縄ならではの条例こそが、美しい21世紀の沖縄の風景を創り出す源になるのではないでしょうか。
日本建築家協会沖縄支部 支部長 島田 潤